引越しから二年近く経って本棚に本が入りきらなくなってきたので、一箱古本市というものに参加してみることにした。一箱古本市は東京の谷根千(谷中・根津・千駄木)から発祥してここ二十年くらいでほつほつと全国に広がった本のフリーマーケットだ。私も通りがかって覗いてみたことはあるけれども、出店するのは初めて。とりあえず折りたたみ式の椅子を買ってみたり、しばらく使ってないレジャーシートを広げてみたり。
単に除却したい本を不規則に並べたのではつまらないから、いくつかカテゴリー分けをしてみようかと思う。カテゴリーその1は、名付けて「出版の明日はどっち?」。たとえば……。
『まちの本屋 知を編み、血を継ぎ、地を耕す』/田口幹人/ポプラ社/2015年刊
独自のヒットを生みだしてきた盛岡駅構内のさわや書房フェザン店、店長によるエッセイ。「僕たちにとっては全国で売れている本であるかどうかは関係ないのです。他所で売れていても、僕たちの店で売れるとは限らないからです」
『私は本屋が好きでした あふれるヘイト本、つくって売るまでの舞台裏』/永江朗/太郎次郎社エディタス/2019年刊
表現の自由を標榜する業界でモラルハザードが起きてしまうのはなぜなのか。差別主義的な本が流通する「川上から川下まで」を取材。「『出版界はアイヒマンだらけ』というのが率直な感想である」
『「本が売れない」というけれど』/永江朗/ポプラ新書/2014年刊
統計データや関係各所へのインタビューから「出版不況」の実態を読み解くルポルタージュ。「いちど破滅してしまって、焼け野原になって、何もないところからまた始めればいいんだよ」
『”ひとり出版社”という働きかた』/西山雅子/河出書房新社/2015年刊
出版における「小商い」は可能か? ひとりで出版社を立ち上げた10名へのインタビュー集。「本を絶版にしないで100年続けられること。その10分の1がようやく経とうというところ」(ミシマ社・三島邦弘さん)
『電子書籍で1000万円儲かる方法』/鈴木みそ・小沢高広(うめ)/学研パブリッシング/2014年刊
Kindleセルフ出版のパイオニア、二人の漫画家による対談。「既得権益を守ろうという動きが、結果的に自分たちの首を絞めているということに、いいかげん気が付いたほうがいいと思います」(小沢)
『本屋になりたい この島の本を売る」/宇田智子/ちくまプリマー新書/2015年刊
東京の大手書店を退職し、沖縄で古本屋を開業した主によるエッセイ。「紙と紙の交換は、たぬきの葉っぱの化かしあいのようなものかもしれません。紙そのものに価値があるのではなく、価値があると信じる人がいるから価値が生まれるという点では、古本もお金も同じです」
『書籍出版経営の夢と冒険 普及版出版経営入門──その合理性と非合理性』/ハーバート・S・ベイリーJr./箕輪成男・編訳/出版メディアパル/2018年刊
プリンストン大学出版局を率いた経営者による出版社経営の解説書。「ところで新しい技術のおかげで、次のことがはっきりしてきた。出版社が売っているのは本そのものではなく、本にふくまれるイメージであるということである」
『高校図書館デイズ 生徒と司書の本をめぐる語らい』/成田康子/ちくまプリマー新書/2017年刊
高校の図書室を訪れる生徒たちと司書による、本をめぐる交歓。「これまで私に話してくれた生徒たちは、その本のなかに自分が自分であるというかけがえのない存在理由を見出しているようにも、私には思えます。だから話したくなるのだと思います」
私自身は学生時代に渋谷の大型書店でアルバイトをして、たまたま本を出すことになってフリーライターを十年少々やった後、電子書籍関連の会社で一年少々経理をして、ここ数年はまったくの外野から出版業界を眺めている。のらりくらりした立場で、一つだけ確信を持っているのは、本の価値はすごく相対的だということ。
誰かにとってはお金に代えられない大切な本も、他の人にとってはタダ以下の紙の束だ。音楽や映画と比べても、その差は著しいと思う。出版業界でお金が回っていないとしたら、本と人のマッチングがうまくいかず、ひとつひとつの本が潜在的な価値を発揮できていないからだろう。
現に、せっかく出店するのだからポップでもつけてみようかと思って、印象的な箇所を抜き書きしてみたけれど。表紙だけで手に取ってもらって、先入観なしに読んでもらったほうがいいような気もするし。そもそも私、字が汚いし。読んでおもしろいと思ってくれる人に手渡すことができるかどうか、さっそくマッチングの難しさを体験しつつある。