いまさらの話題になってしまうけれど、今年最初の読書はインチマガジンというインディペンデント・レーベル発行の『この星を離れた種族』だった。大晦日に実家に向かう電車の中から携帯端末で注文したところ、その三日後に数枚の年賀状と一緒にポストに届いていた。お正月を過ごす間には他の文庫本を読んでいたのだが、今年最初に届いた本、もっと言えば「今年最初に気に入った本」がこの小冊子だった。
「鉄の種族」「ゆりかご惑星」の2篇が収められたSF短編集で、まず装丁がとても良い。上着のポケットに入れて持ち歩ける大きさで、ブルーとグレーを基調とした装画に中綴じの赤い糸がかわいい。裏表紙に汚いバーコードもない。手で持った感じ、目で見た感じ、「本を所有する喜び」みたいなものがある。
小説の内容については、あれこれ説明するより『この星を離れた種族』というタイトルから自由に想像してもらうほうが(あるいは実際に読んでもらうほうが)いいと思う。高度に発達したテクノロジーとその荒廃が背景となっていて、そういう話がこういう装丁に収められているところがスゴクイイ。あり得るべき未来の乾いた空気と、本を所有するという前時代的な喜びを同時に味わっている私は、「ああ、いまだこの星に留まっている種族なんだなあ」という不思議な気持ちにさせられる。
いまさらの話として書き出したのは、5月に入ってから年初の話をすることに対してだが、個人的にはもう少し色々な意味でも「いまさら」感がある。
私は2000年代前半にライター稼業を始めて2015年頃に廃業した。廃業に至った理由の一つに「出版業界に限界を感じた」ことが挙げられる。その間、小規模出版のプラットフォームが発達して、出版業界の外で(あるいは周縁で)独立系の出版が勃興していることは知っていた。個人経営の書店やミュージアムショップなどでいくつか買ったことはあるものの、2025年の年初になってようやく「この本の良さは、インディペンデントならではだな」などと感じ入ったのも、いまさらと言えばいまさらだ。つくづく私は、いまだこの星に留まっている、遅れた種族らしい。
さて、以下はご報告というか、もう一つ「いまさらの話」を。
今週からSNS「X」上に、いわゆるbotを設置しました。「ライターズブルース.bot」という名前で月~金に1回、自動投稿するように設定してあります。botbirdというツールを使って、とりあえず50件くらい登録したところです。
ブログを始める際になんとなく、SNSもやったほうがいいんだろうなと思ってアカウントは作ってあったんですが。SNSが「人とつながる」ツールだとすれば、今はそんなにつながらなくてもいいかな、ブログも、読む人が誰もいなくてもとりあえず続けられればいいや、という感じで放置していました。
自分なりに何かやってみようと思い直したのは、去年の12月27日付のブログがきっかけです。初めて課金機能をつけて、4~5千円くらいになればいいかと思っていたところ、X(旧Twitter)上でいろんな人がポストやリポストをしてくれたおかげで、3万円以上の売上になりました。自分の売上のためには自分で広報しないとな~とか、こういうコミュニティに自分も参加しないとな~とか色々考えて、とりあえず半自動運用しようと結論した次第です。引きこもり児童がおそるおそる保健室登校を始めたよ、という感じ。
教室への登校(手動での投稿)を諦めたのは、私にはとてもついていけないからです。タイムラインと呼ばれるあの画面を眺めていると、スクランブル交差点の真ん中で立ち往生して怒鳴られたりクラクションを鳴らされてるような、「頼むから一人ずつ、ゆっくり喋ってくれないか」という気分になる。あの形式の情報を処理する能力が私には欠けているようで、かなしきかな、遅れた種族よ。
Twitterでbotを運用するというプランは10年くらい前、ライターを廃業するときに思いついたことでした。前述したように個人出版のプラットフォームがいろいろ出てきて、これからは出版社に頼らず自分で本を作ろうと思っていた頃です。告知宣伝のために出版社や編集者の悪口をTwitterで言いふらして、いわゆる炎上商法を試してみようと計画したわけです。それ用の原稿も120本くらいこしらえていたんですが。
実行に至らなかったのは、まずは転職して生計を立てるのに忙しかったから。転職したらしたで、本名で出版活動をしたり炎上商法を試すのはリスキーになってしまったから。それにやっぱり、炎上商法は自分には向いてないと思ったから。自分にも反省すべきところ、恥ずべきところが多々あったなと我に返ってしまう。それに悪口を書くと、やっぱりイヤな気分、暗い気分になってしまう。
デスクトップに保存してあった原稿を印刷して、久しぶりに読んでみると、やっぱり暗い気持ちになりました。その一方で、こんなこと考えてたんだな、どうしてもこれが言いたかったんだな、と思うものもありました。「今となっては笑える」もしくは「今なお同情に値する(と思われる)」ネタを選んで、新たなネタを加えて、「出版業界で行き倒れたフリーライターの生き霊」という設定にしました。
生き霊なので性格は歪んでるし、言ってることは逆恨みだったり言葉足らずだったり。その時々でこちらのブログで補足(というか言い訳)するつもりですが、基本的には「そんなこと言ってるから廃業したんだよ~」と笑ってもらえればいいかなと。いまさら炎上商法を試そうとは思わない、自分の書いた文章を、読んでおもしろいと思ってくれる人に届ける努力をもう少ししてみようかなと。そんなところです。