ライターズブルース

読むことと、書くこと

2023-08-01から1ヶ月間の記事一覧

「おいしい」の正体

『味覚極楽』/子母澤寛/中公文庫/1983年刊 引越しに向けて本を整理する中で、特に料理関係の本は線引きが難しかった、と前回書いた。処分するか持っていくか、もしなんとなくの基準があったとしたら「類書があるかどうか」だったかもしれない。少なくとも…

地味礼讃

『逃避めし』/吉田戦車/イーストプレス/2011年刊 フリーライターをしていた頃、必要もないのに弁当を作っていたことがある。寝る前に炊飯器のタイマーをセットして、朝、炊き上がった米を弁当箱に詰め、おかずを載せて、冷めたら蓋をして、大判のハンカチ…

羊から逃げてきた話

『羊をめぐる冒険』(上)(下)/村上春樹/講談社文庫/1985年刊 ライター稼業から足を洗おうとしていた私を、引き留めようとしてくれた友人がいた。彼女の紹介で某月刊誌の編集部から連絡があったとき、それはいい仕事、言ってみればお座敷からお声がかかった…

"怒り"ではなく"粘り"を

『戦争まで 歴史を決めた交渉と日本の失敗』/加藤陽子/朝日出版社/2016年刊 今の若い人たちはもっと怒ったほうがいいと、先日ある年長者に言われて、さて、と考え込んでしまった。とうに四十を過ぎている私を指してのことだったかどうかはともかく、私だ…