ライターズブルース

読むことと、書くこと

2023-10-01から1ヶ月間の記事一覧

いくつかのかなしみ

『生きるかなしみ』/山田太一・編/ちくま文庫/1995年刊 近所の家の庭で焚き火をするとのことで日の暮れ方から見物に行くと、家主の友人がひとりふたりとやってきて、八時過ぎには十人少々の集まりになった。二、三人ずつの輪ができてはほぐれ、また別の輪…

"気配り"の行き着く場所

『毎日食べたい、しみじみうまい。和食屋の和弁当』/笠原将弘/主婦の友社/平成25年刊 あるとき会社で昼休みにお茶を汲みにいくと、給湯器の近くに設置された複合機で営業部のSさんが何かの本のコピーをとっていた。私がお弁当を食べ終えてまたお茶を汲み…

先生たちと、先生と呼んでくれた人たちへ

『閉された言語空間 占領軍の検閲と戦後日本』/江藤淳/文春文庫/1994年刊 母校で週に一コマの非常勤をしていた頃のことで、一つ悔やんでいることがある。ある学期の最後に江藤淳の『閉された言語空間』をテキストに指定したところ、翌週の提出課題で「陰…

願わくば今よりも広く深く

『河よりも長くゆるやかに』/吉田秋生/小学館文庫/1994年刊 三十を過ぎた頃、母校大学で週に一コマ作文のワークショップを受け持つことになった。人に教えられるほど作文に習熟しているつもりはなかったけれども、私が辞退すれば枠が一つ空くタイミングで…