ライターズブルース

読むことと、書くこと

2024-01-01から1年間の記事一覧

「私」と「誰か」の相関と互換

『一人称単数』/村上春樹/文春文庫/2023年刊 一人称単数の短編小説を、村上春樹さんは過去にいくつも書いている。この短編集に収録された八編には「”僕”もしくは”私”が語る物語」という以外にも、それが小説家・村上春樹である(と思わせる)という共通点…

弟子時代の遺物(その三)

『コスモポリタンズ』/サマセット・モーム/龍口直太郎 訳/ちくま文庫/1994年刊 お世話になっていた先生の自宅からサマセット・モームの文庫本を十冊くらい引きとった経緯については、以前書いた。代表作とされる長編小説と、晩年に書かれたエッセイ集と…

忘れてたのに、そこにいる

『ウォーホルの芸術 20世紀を映した鏡』/宮下規久朗/光文社新書/2010年刊 アンディ・ウォーホルといえばアメリカン・ポップアートの巨匠で、日本国内でもわりと頻繁に大規模な回顧展が催されている。でも、私は観に行ったことがない。画集を開いたことも…

本を買う理由

『手軽 あっさり 毎日食べたい あたらしい家中華』/酒徒/マガジンハウス/2023年刊『青椒肉絲の絲、麻婆豆腐の麻 中国語の口福』/新井一二三/筑摩書房/2023年刊 どうして私は本を買うんだろう、と思うことがある。 たとえばブックカフェで読みきれなか…

貰うことと、受けとること

『万能! にんにくみそ床レシピ』/松田美智子/河出書房新社/2014年刊 何度か利用した通販サイトで「水抜き不要のぬか床容器」なるものを発見したのは一年くらい前だった。冷蔵庫内の幅と奥行きを測ってサイト記載の寸法を確認、「買ったけど使わない」な…

ジャズの屈託、私の屈託

『ポートレイト・イン・ジャズ』/和田誠・村上春樹/新潮文庫/平成16年刊 ジャズという音楽には気ちがいじみた愛好家がたくさんいて、派閥を形成して隠語で通じあったりウンチクを競いあったりしている、という勝手なイメージを長いこと抱いていた。歴史も…

見ることと描くこと

『〈オールカラー版〉美術の誘惑』/宮下規久朗/光文社新書/2015年刊 二、三ヶ月前、ワインを飲みながら絵を描くというワークショップに参加した。美大生が講師をする体験型アートショップというもので、その日は6号のキャンバスにパレットナイフを使って…

お客さんには、なれるけど

『本屋になりたい この島の本を売る』/宇田智子/ちくまプリマー新書/2015年刊 『増補 本屋になりたい この島の本を売る』/宇田智子/ちくま文庫/2022年刊 フリーライターをしていた頃、「編集者はお客さまなんだから」とたしなめられたことがある。相手…

本屋ごっこ未遂譚

『女たちよ!男たちよ!子供たちよ!』/伊丹十三/文藝春秋/昭和54年刊 学生時代にアルバイトをしていた本屋では従業員向けの割引制度があって、会計の際にレジでネームプレートを見せると、一割引きにしてくれた。当時の私はこれがとっても嬉しくて、それ…

人を殺してしまった後には

『殺人者たちの午後』/トニー・パーカー/沢木耕太郎 訳/飛鳥新社/2009年刊 『死刑』/森達也/角川文庫/2013年刊 一度読んだだけでは消化不良で、そのうちまた読もうと思ったものの、棚に挿したまま長いこと開かなかった本がたくさんある。たとえば『殺…

ひと箱古本市の準備(その2)

フェア「男と女と、フェミニズム」を検討中。 先週に引き続き出店の準備を進めながら、一つ気がかりなことがあった。案内文に次のように書いてある、「栞とペンを用意するので、出品する本のコメントを書いてください」。10時くらいに集合して、11時オープン…

ひと箱古本市の準備(その1)

「出版の明日はどっち?」フェアを検討中 引越しから二年近く経って本棚に本が入りきらなくなってきたので、一箱古本市というものに参加してみることにした。一箱古本市は東京の谷根千(谷中・根津・千駄木)から発祥してここ二十年くらいでほつほつと全国に…

産業と信仰心についての覚書き

『誰が音楽をタダにした? 巨大産業をぶっ潰した男たち』/スティーヴン・ウィット/関美和・訳/ハヤカワノンフィクション文庫/2018年刊 『誰が音楽をタダにした?』は1990年代から2010年代にかけて、音楽の流通形態がCDからストリーミング配信へと移り替…

お知らせ(ブログタイトルの変更)

ブログを始めてだいたい一年になります。だからというわけではないけど、タイトルを改めました。 (旧)捨てられない本 (改)ライターズブルース 当初は、何を書くか毎回考えるのは大変そうだなと思ったことと、ちょうど引越しで大量に本を処分した後だった…

20年越しの「編集」考

『圏外編集者』/都築響一/朝日出版社/2015年刊同/ちくま文庫/2022年刊 文学フリマというイベントが初めて開催された年、私が在籍していた大学のゼミでも、作品集を出品しよう、ということになった。自分たちの書いた小説(のようなもの)を一冊にまとめ…

男の◯◯、女の◯◯

『女の絶望』/伊藤比呂美/光文社文庫/2011年刊 兄や姉と一緒に『ルパン三世』の再放送を見ていた頃、オープニングソングで「お~とこには~じぶんの~セェカァイがぁある!」というBメロに差し掛かると、子ども心に「女にはないのかなあ」と思ったものだ…

新しい本、古い本。新しい言葉、古い言葉。

『文車日記−私の古典散歩−』/田辺聖子/新潮文庫/昭和53年刊 たまには最近買った本の話を。と思ったわけではないけれど、小池昌代さんの訳による『百人一首』(河出文庫)がおもしろい。正月に甥っ子や両親とこたつを囲んでカルタ遊びをした後、本屋で見かけ…

修行と教育、もしくは指導

『ヴィルヘルム・マイスターの修行時代』(上)(中)(下)/ゲーテ/山崎章甫訳/岩波文庫 編集者と原稿のやりとりをしていると、たまに「だったら自分で書けば」と思うことがあった。従ったほうが記事が良くなると思えば従うし、注文を受けての原稿だからなるべ…

レシピ本大賞さんへ

『土井善晴さんちの「名もないおかず」の手帖』/土井善晴/講談社+α文庫/2015年刊 レシピ本大賞というものが気になっている。今年はどの本が受賞するんだろうかと気にしているのではなくて、そのあり方が気になる。本屋大賞と比べて知名度も影響力も低い…

追悼文についての覚書き

『友よ、さらば 弔辞大全Ⅰ』/開高健・編/新潮文庫/昭和61年刊 『神とともに行け 弔辞大全Ⅱ』/開高健・編/新潮文庫/昭和61年刊 15年前に少々変わったなりゆきで、物故した陶芸家の追悼文を書いたことは前回に記した。当時その種類の原稿を書いたことの…

うつわについての覚書き

『自分で焼ける 何でも焼ける 決定版 七輪陶芸入門』/吉田明/主婦の友社/平成14年刊 誰かを指して器が小さいと言えば悪口になるし、器が大きいと言えば褒め言葉になる。でも、必ずしも大きい方が良いとも限らないんじゃないか。私がそう思うのは、若い頃…

お知らせ

微熱で頭がぼーっとするため今週の更新はおやすみします。風邪かな、花粉かな。 見にきてくださった方、ごめんなさい。 花屋で雪柳をみかけるとだいたい毎年買ってしまう。今年のも枝ぶりがなかなか。

中間報告

『新版 エルサレムのアイヒマン 悪の陳腐さについての報告』/ハンナ・アーレント/大久保和郎訳/みすず書房 学生の頃、ある講義の課題として以下のテーマが与えられた。 「第二次世界大戦における極限状況下で、表現者たちは表現し得たか」 学生の立場とし…

責任の墓標

『作家の値うち』/福田和也/飛鳥新社/2000年刊 大学受験のときは理工学部を志望して一年浪人までしたのに、結果は惨敗で、受かったのは予備校の先生に勧められて受験した某私大の環境情報学部だけだった。入学はしたけれど、これという目的もなく漫然と大…

会社員たちへ

『男たちへ フツウの男をフツウでない男にするための54章』/塩野七生/文春文庫/1993年刊 塩野七生さんの『男たちへ』のようなコラムを書きませんか、と言われたことがある。もう二十年近く前の話だ。駆け出しのフリーライターにとって原稿の依頼は何でも…

プロとアマチュアと、それ以外

『波止場日記 労働と思索』/エリック・ホッファー/田中淳・訳/みすず書房/1971年刊 肉体労働とか頭脳労働という言い方になぞらえて、自分は感情の労働者だ、と思っていた時期がある。たとえばある人物のインタビュー記事を引きうけると、その人の著書や…