ライターズブルース

読むことと、書くこと

レシピ本大賞さんへ

『土井善晴さんちの「名もないおかず」の手帖』/土井善晴/講談社+α文庫/2015年刊

 レシピ本大賞というものが気になっている。今年はどの本が受賞するんだろうかと気にしているのではなくて、そのあり方が気になる。本屋大賞と比べて知名度も影響力も低い(ように見える)し、毎年9月の発表・授賞式もいまひとつ盛り上げりに欠ける(ように見える)のは、どうしてなんだろうかと。

 本屋大賞の設立は2004年。全国の書店員が「一番売りたい本」に投票するという選考方式は、従来の文学賞にはない明るさと新しさがあった。第一回を小川洋子さんの『博士の愛した数式』が受賞して「やっぱり書店員さんは良い小説を選ぶなあ」と思ったものだ。以降、特に気をつけてウォッチしていなくても本屋に行けば自然と「今年はこの本が受賞したんだな」と目に入るし、個人的には、毎年2回発表される芥川賞直木賞より「読んでみようかな」とか「あらすじくらいは知っておかないとな」という気にさせられる。

 一方、レシピ本大賞の設立は2014年。私がその存在を知ったのは、ここ2、3年のことで、受賞のオビが巻かれた本をいくつか店頭で手に取ってみたけれども、どういうわけかピンと来ない。購買意欲を刺激されない。調べてみると、こちらも書店員有志によって運営されているそうで、レシピ本にも賞を設けて市場を活性化させようという狙いは理解できる。しかしながら本屋大賞のように「なるほどなあ」と思えないのはなぜなんだ。

 実行委員の方がこのブログを見る可能性を鑑みて(ゼロではない)、いくつか提言をしてみたい。

 一つ目、部門が多すぎやしませんか。大賞と準大賞と入賞があって、それとは別にエッセイ、コミック、お菓子、子ども向け、プロが選んだ……去年から新たに「ニュースなレシピ賞」まで新設したのは、いかがなものかと思います。一口にレシピ本といってもいろいろあって一概に優劣をつけがたいことはお察ししますが、結局どれが大賞を受賞したのかわからない、店頭で目立たない。結果的に去年と同じ著者が部門を跨いで受賞しているのを見ると「またこの人か」と思ってしまいます。たとえば、単身自炊部門、四人家族部門、プロ部門、この三つでいかがでしょう。

 二つ目、実用書ならではの選考方法を取り入れませんか。一次選考は投票制で各部門3点ずつに絞る、二次選考では複数の選考委員がレシピを実践して、食べながら会議して決定する。料理や食事、話し合いの様子を動画で配信したり、写真を店頭ポップに使ったり、レシピ本らしい賞として育てていってほしいと思います。

 三つ目、ノミネートも書店員による推薦制にしてはいかがですか。現在は出版社からのエントリーを募っているようですが、残念ながら一部の出版社では「今が旬の料理研究家」にドシドシ本を作らせる粗製濫造の傾向が見られます。「出版社が売りたい本」ではなく「書店員が売りたい本」にこだわってください。私が言うのもナンですが、料理人にとってレシピはたぶん、修行、勉強、研究の賜物です。「ニュースなレシピ」などと宣伝して一過性の流行を作るのではなく、「ずっと売り続けたい本」を選考の基準にしていただいたほうが、著者と読者に益することと思います。以上。

 ……ちなみに私が「単身自炊部門賞」に推すとしたら、まずは『土井善晴さんちの「名もないおかず」の手帖』だ。土井さんのレシピは塩と砂糖、醤油とか味噌とか、だいたいどこの家にでもある調味料で作れる。特にこの本は、トマトと卵だけとか、キャベツとシラスだけとか、レンコンと卵だけとか、材料も二つ三つでできる料理がたくさん載っている。作り方はどれも簡単で、もちろんおいしい。青菜からレンコンまで、目次は食材のあいうえお順になっているから、野菜を余らせがちな単身世帯では持っていれば間違いのない一冊だと思う。

「名もないおかず」とは、身近な材料で作る毎日のおかずのことです。青菜を1わ買ってきたら、さあ、どうやっておいしく食べようか、ということ。料理名ではなく、素材ありきです。素材から始まるおかず作りの本、どうぞキッチンに置いて活用なさってください。(まえがき「名もないおかずとは」より)

 レシピ本大賞とは関係ないけど、ついでに提言をもう一つ。料理本の棚にブックストッパーを並べて、一緒に売ってみてはいかがでしょう。

『「名もないおかず」の手帖』は単行本と文庫版があって、私は知人からもらった文庫版を活用している。文庫ってかさばらないのはいいけど、開いたまま置いておけないのですね。そこでブックストッパーの出番。クリップ部分でページを挟んで重しで固定しておけば、本を見ながら料理ができる! 料理本と一緒に並べておけば、きっと売れると思うんだけど、どうかなあ。

ブックストッパー、ブックキーパー、ブックホルダー…いろんな呼称があるけど、私はトモエ算盤社製を愛用しています。二個あると両側から挟めて、より安定する。