ライターズブルース

読むことと、書くこと

貰うことと、受けとること

『万能! にんにくみそ床レシピ』/松田美智子/河出書房新社/2014年刊

 何度か利用した通販サイトで「水抜き不要のぬか床容器」なるものを発見したのは一年くらい前だった。冷蔵庫内の幅と奥行きを測ってサイト記載の寸法を確認、「買ったけど使わない」なんてことにならないだろうかとじっくり検討して、購入したのが年末。使い始めて五ヶ月目、この頃やっと馴染んできたというか、この分なら続けられそうだという気がしてきた。

 といっても私が漬けているのはぬかみそではなく、にんにくみそだ。ぬか漬けは、発酵済みのぬか床を買って試したことがあるけれど、寒い時期はあまり食べたいと思わなくなる。にんにくみそなら肉も魚も野菜も漬けられるし、漬けた食材を焼いたり煮たり揚げたり、冬場の温かい料理にも使える。

 用意するのは味噌1キロとニンニク1玉と酒1/3カップ。味噌と酒を合わせたものを容器に敷いて、皮と芽を除いたニンニクを埋め込んで、二週間寝かせたら準備完了。あとは肉でも魚でも野菜でも好きなものを漬ける。味噌は好みのものを二種類混ぜると良いとか、最初は牛肉を漬けるとみそ床の旨味が増すとか、コツやアレンジレシピは松田美智子さんの本に載っている。

 お歳暮でいただく牛肉のみそ漬けを心待ちにし、みそ床に興味を持ち、いただきもののみそ漬けのみそに別の肉を漬けたのが最初です。”もったいない”から始まり、自分の好みの味に仕立ててみたくなり、しょうがを入れたり、別のみそを加えたり、余ったにんにくを足しながら育てています。漬けた素材から出る旨みでどんどんみそ床の味が上がります。そして、今ではみその塩分とにんにくの殺菌作用で、1~2ヶ月忘れていても、かびることも腐ることもなく、我が家のおかずを助けてくれる強い味方です。(「私とにんにくみそ床」より)

 じつはこの本、十年くらい前にある人から貰った、保存容器に入ったにんにくみそと一緒に。本を見ながらいろいろ漬けたり、漬かったにんにくを刻んで薬味にしたり、みそをお餅に塗って焼いて食べたりと、あれこれ楽しんでいたのだが。不精者の私は半年くらいでダメにしてしまったのだ。

「よくある質問Q&A」には書いてある、みそ床が水っぽくなったらペーパータオルで水気を吸いとりましょうとか、味が薄くなってきたら味噌とにんにくを足しましょうとか。そのとおりに実践すればよかったものを。重い腰を上げたときには、ペーパータオルでは対処できないくらいじゃぶじゃぶになっていた。もったいない気持ちと申し訳ない気持ちで処分した後、本だけが手元に残った。

 もう一度、自分でちゃんと漬けてみよう。でも、私はどうせまたダメにしてしまうかもしれないなあ。……たまに頁を開いては思い留まることの繰り返しだった。「水抜き不要のぬか床容器」を発見するまでは。

 容器が二重になっていて、内側の容器の底には穴があって、そこから水分が自動的に抜ける? サイトで見たときは半信半疑だったけれども、実際に牛肉を漬けてみると、翌日には透明の外容器の底に1ミリくらい茶色い水が溜まっていた! あとは把手のついた内容器を外して、外容器の水を捨てるだけ。漬ける食材によって水が落ちる量とスピードが違うのも、実験みたいでおもしろい。これなら私にも続けられそう。いや、今度こそ続けるぞ。

 

 にんにくみそ床とこの本をくれたHさんは、もともとは大学の先生の奥さんとして面識を得た。その頃は「先生の奥さん」として接していたのだが、その後十年くらいを境に先生とは疎遠になり、Hさんとは親しくなった。それからまた十年以上経って、今はもう、どう説明したら良いかわからない。

 いろいろなことを教わって、いろいろなものを貰った。このブログで題材とした「捨てられない本」も、少なくとも十冊はHさんに勧められるか貰うかした本だ。言葉ではお礼を言うけれども、お返しをできた試しがない。私が知っているようなことはなんでも知ってるし、私が買えるようなものはなんでも持っているから。

 お返し以前の問題として、受けとることすら十分にできていない。その好例がにんにくみそ床だ。きっと良い味噌や良いニンニクで仕込んでくれたに違いなく、我ながら情けないことをしたものだといまだに思う。

 最近、近所の人に唐辛子の苗を分けてもらった(私は人からよくものを貰う)。ベランダに鉢植えを置いて、秋に無事収穫できたら、みそ床にぶちこんで「にんにく唐辛子みそ床」にするつもりだ。うまくいったらHさんに報告しよう。報告できるように、みそ床をダメにしないように、苗を枯らさないように。でも、今まで手にした植物はぜんぶ枯らしてきたからなあ。自信はあまりない。

容器付属のヘラも、表面がボツボツしていて使いやすいし、斜めに入れるとうまく引っかかって、そのままフタできる。去年の買い物ベストスリーに入る、このままちゃんと使いこなせれば。